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東京高等裁判所 昭和33年(ナ)2号 判決

原告 栗原義重

被告 千葉県選挙管理委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は「被告が昭和三三年四月一四日裁決した同年一月一三日執行の千葉県君津郡小櫃村長選挙につき原告の提起した当選の効力に関する訴願棄却の裁決はこれを取消す。右選挙における千葉県君津郡小櫃村賀恵渕一〇七一番地田中祐一の村長当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

一、原告は千葉県君津郡小櫃村長の選挙権及び被選挙権を有し、昭和三三年一月一三日施行の小櫃村長選挙に立候補した者である。

二、千葉県君津郡小櫃村選挙管理委員会(以下村委員会という)は昭和三三年一月一三日小櫃村長の選挙を施行する旨同月六日告示した。

三、よつて右村長の候補者となろうとする者は昭和三三年一月六日告示の時から同月八日午後一二時までに文書でその旨を当該選挙長に届け出なければならない。

それは公職選挙法第八十六条に「町村長の候補者となろうとする者は、当該選挙の期日前四日までに文書でその旨を当該選挙長に届け出なければならない。」と規定されているからである。「前四日」とは「四日前」ので「四日目」と同意義ではない。民法第一四〇条に「期間を定むるに日、週、月又は年を以てしたるときは期間の初日は之を算入せず但其期間が午前零時より始まるときは此限に在らず」と規定されているので、本件のように選挙期日が一月一三日の場合は、その前の四日即ち一月一二日、一月一一日、一月一〇日、一月九日を除き、その前までに立候補届をなすべきで、一月九日の午前零時を過ぎて同日中に立候補届をなした者は選挙期日の四日前に立候補届をなしたものではなく選挙期日前四日目に立候補届をなしたものというべく、それは選挙期日前三日までに立候補届をしたものといわざるを得ない。従つて選挙期日と立候補届出日との間に「四日」なければ適法な立候補届とは解し難いのである。

四、本件小櫃村長選挙において、昭和三三年一月八日までに立候補届をなしたのは原告一人のみなので、選挙長は各投票管理者に投票を行わない旨通知し、併せてこれを告示すべきであつた。

五、しかるに昭和三三年一月九日に訴外田中祐一が小櫃村長選挙に立候補の届出をなしたので、村委員会は同月一三日小櫃村長選挙の投票を行い、開票の結果訴外田中祐一が最多数の得票があつたので、同人を当選人であると定め、その旨告示した。

六、しかし、右投票は違法の立候補者に対する投票なので全部無効であるから、原告は昭和三三年一月一六日村委員会に対し訴外田中祐一の小櫃村長当選は無効である旨更正決定をなすよう当選の効力に関する異議の申立をなした。

七、しかるに村委員会は昭和三三年二月九日右異議申立を棄却する旨決定し、原告は同日その決定書の交付を受けたところ村委員会は同月一一日重ねて右異議申立を棄却する旨決定し、その決定書を同月一二日原告に交付した。(村委員会は昭和三三年二月一二日に同月九日にした前記異議申立棄却決定を取消しその旨原告に通知した。)

八、よつて原告は昭和三三年二月一〇日及び一三日被告たる千葉県選挙管理委員会に対し、前記村委員会の異議申立棄却決定を取消し、訴外田中祐一の村長当選は無効である旨の裁決を求めるべく訴願を提起したところ、被告は昭和三三年四月一四日原告の右訴願を棄却する旨裁決し、その裁決書は同月一六日原告に到達した。

九、しかしながら、前記の理由により、原告は右裁決に不服であるので、被告の右裁決を取消し、訴外田中祐一の当選無効の判決を、求めるため本訴に及んだ次第である。

被告訴訟代理人は主文第一項と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。即ち

一、原告主張の一、二、五、七、八の事実及び原告が昭和三三年一月八日立候補の届出をした事実並びに昭和三三年一月一六日村委員会に対し、訴外田中祐一の当選無効の異議申立をした事実はいずれもこれを認める。

二、原告主張の三点については、

公職選挙法第八十六条第一項第五号に立候補届出の期限として規定する選挙の期日前四日というのは、選挙期日の前日を第一日として、逆算して四日目に応当する日を指すのであつて原告の主張するように選挙期日と立候補締切日との間に四日をおかなければならぬという趣旨ではない。従つて訴外田中祐一の立候補届出は法定期間内の届出であるから、この点の原告の主張は失当である。

理由

昭和三三年一月一三日施行せられた千葉県君津郡小櫃村村長選挙に際し、原告が同年同月八日に訴外田中祐一が同年同月九日に、それぞれ立候補の届出をなしたところ、同月一三日の選挙期日に選挙の結果右田中祐一が多数の得票を得たので、村委員会が同人を当選人として告示したこと、原告が右当選の効力を争い、村委員会に対し異議の申立をなし、右異議申立棄却の村委員会の決定に対し、被告に対して訴願を提起したが、被告は昭和三三年四月一四日原告の右訴願を棄却する旨の裁決をなし、同裁決書が同月一六日原告に送達されたことは、当事者間に争のないところである。

原告が被告の右裁決の取消並びに訴外田中祐一の当選無効の確定を求める本訴の理由とするところは、同訴外人の立候補届出が法定期間内の届出ではなく違法のものであるというにあるので考えるに、公職選挙法第八十六条によれば、町村長の候補者となろうとする者は、当該選挙の期日前四日までに文書でその旨を当該選挙長に届け出なければならないことになつているのであつて、右の「期日前四日までに」とは選挙期日を第一日とし逆算して四日目にあたる日まで、すなわちその四日目の始まる前までに立候補届出をなすことを要する趣旨と解するを相当とするから、訴外田中祐一のなした立候補届出は適法の届出といわなければならない。

従つて原告の主張は失当であるから、本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 土肥原光圀)

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